デンマークで建築士をやるということ(後編) ―― 住民自身が育てた家「箱舟」

齋藤光代(建築設計事務所PLAN代表)

出典:『建築ジャーナル』2017年4月号「特集・海外仕事術」より再構成

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前編では、デンマークならではの「会議で決める」仕事の進め方と、ロスキルデの印刷所のお話をご紹介しました。後編では、住民たちが自分たちの手で育てあげたコーポラティブ住宅「箱舟」と、この国で働く中で感じてきたことをお話ししたいと思います。

現場から コーポラティブ住宅「箱舟」 ―― 住民自身が育てた家

ご紹介したいのが、1991年にバイレ市で竣工した「箱舟」です。家族向け住宅12戸(1戸あたり107〜140㎡)とみんなで使うコモンハウスからなる、コーポラティブ方式の住宅でした。

これは、入居希望者たちが自分たちで組合をつくって土地を購入し、建設からその後の運営・管理まで自分たちの手で担っていくという、デンマークでとても人気のあるやり方です。国の補助金のおかげで土地も割安に手に入り、最初の募集7戸はあっという間に埋まりました。地元新聞で告知し、10月に説明会、11月には基本設計スタート。住民の約8割が参加して、間取りを一緒につくり上げていきました。

とはいえ、12戸すべての買い手が決まるまでには、なんと7年もかかっています。大変だったのは、最初に決めたはずのことが、契約の並行進行の中でどんどん覆っていったこと。それでも粘り強く話し合いを重ね、土地購入が正式に決まったタイミングで「箱舟」組合と設計契約を結びました。

印象的だったのは、入居者みなさんが自分の家を「まるで祖父母の代から受け継いだもの」のように大切にしていたこと。竣工から16年後の調査では、最初に購入した12世帯のうち、引っ越していったのはわずか4世帯だったそうです。

構造は大手ゼネコンにお願いし、その代わりに予算管理も任せました。ところが入札額は予算を2割も超えてしまい、何度も話し合いを重ねることに。それでもキッチンやシャワーを共有にするか各戸につけるか、住民一人ひとりが選べる自由を残しながら、みんなが納得できる住まいへと落ち着いていきました。

それでも、この国が好きな理由

デンマークのゼネコンは構造部門こそ持っていても、意匠設計には決して口を出しません。実施設計から入札、工事監理、竣工後の対応まで、設計者への報酬の最後の1割は1年点検を経てようやく支払われる――ここでも「最後まで責任を持つ」という姿勢が徹底されています。

正直、外国人にとって働きやすい国かと言われると、簡単には言い切れません。母国語ではない言葉と文化のハンディを抱えながら、人一倍の努力と才能、そして社交性が求められます。労働時間は短いのに、お給料もそれほど高くありません。

それでも、この国と深く関わっていくことをモチベーションにできるなら――移民や難民をめぐる問題、人種差別といった厳しい現実も含めて――得られるものはたくさんあると思っています。

今のところデンマークに戻る予定はありませんが、外国人であっても、この国が好きだという気持ちは変わりません。先人たちが築いてくれた日本の評判を、これからも大切にしていきたいと思っています。

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筆者プロフィール:東京生まれ。デンマーク王立アカデミー建築科卒業(デンマークの一級建築士取得)。一級建築士、上智大学外国語学部卒、東京大学卒業。ウッツオン事務所などを経て、1988年デンマークで設計事務所PLAN開設。2008年東京事務所開設。

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